5/31/2012

ユゴー『エルナニ』



いつもおなじみの3人のランボーさんとマリヴォーさんに加え、
新たなメンバーのユゴーさんを誘って、
Belleville劇場でユゴーの『エルナニ』を観劇してきました。

改めて考えてみるとそこにボナールが混ざっているというのは
いささか変な図ですが、かろうじて19世紀の同士ということで....
みなさんのお話を聞いて、文学の素養も身につけようと奮闘中です。

ちなみにユゴーは1802年生まれ、1885年歿。19世紀をほぼまるごと生きています。

今回の観劇は前々から計画されていたので、ちょっとだけ予習
(といってもユゴーのテキストを全部読んだのではなく、あらすじの確認...)
をしていったので、聞き取れない台詞が多々あっても場面を追うことができました。


そもそも古典演劇というのは、内容や台詞を熟知したうえで、
その演出を楽しむものであるようです。

ただ、場面を認識してしまうと、安心してついうとうとしてしまうので要注意。
この日はみんなで円卓で中華を食べた後、21時からの観劇だったので、
あえなく一眠りしてしまいました。


Théâtre de Bellevilleは街はずれの小劇場にもかかわらず、千秋楽も近いせいか満員御礼。
とりわけ、パリの劇場では中学生や高校生くらいの子たちがたくさん見に来ているので
感心してしまいます。


ところで、観劇において私が唯一しっかり見ているのが舞台美術です。
小劇場だったため、軽い木の小道具や布、照明の色を駆使した演出。
衣装もそんなに奇抜なものではなかったと思います。

はっきりとした距離感のある空間ではなく、
何となく奥行きのある雰囲気を作り出す舞台美術というのもけっこう好きですが、
一度カチッとした舞台の古典演劇も見てみたいものです。

ロマン派美術館の演劇の展覧会で見た舞台美術のデッサンは、
風景画か建築設計図かと思うくらい緻密ですごかったので...。


聞き取れない台詞をBGMに、睡魔と闘いながらぼんやりと
そんなことを考えていると、舞台はクライマックスに。

役者さんたちは溌剌としたチャーミングなキャラクターでしたが、
エルナニは最後にみんな死んでしまうという悲劇のストーリー展開です。

なのですが、ヒロインの死にっぷりが豪快すぎて...
何だかこの場面だけが脳裏に焼き付いてしまいました。



BellevilleでのHernaniの上演の批評を検索してみると
この写真が多く使われているので、やっぱり象徴的な演出だったのでしょう。

Place Clichy


モンマルトルに住む日本画家さんや、ボナールに興味がある画家さん、そして
ランボーさん(パリにはたくさんランボーさんがいます)のうちの一人を誘って、
Place Clichyを訪れました。

パリの北西に位置するこの広場には、19世紀末、
ナビ派の画家たちが多くアトリエを構えていました。

そんな界隈をバスで通りがかったときに、
ボナールの絵の中で見たカフェを窓越しに見つけ、
これは行かねばと長らく思っていました。

LE PETT POUCET (親指太郎)という名のカフェは、
広場に面したテラス席と、木造の装飾的な壁面に鏡が嵌め込まれた重厚な室内が対照的。
かと思えばおじさまが集う奥のバーにはゲーム機が置いてあるような、
古き良き時代のカフェという雰囲気でした。


せっかくだからテラス席に座ってみます。
午後17時、まだまだ明るいパリの雑踏を眺めながら、
ボナールの絵の構図や、絵画のマチエールと主題の関係、詩のマチエールなど、
話しは尽きることなく、3時間近く長居してしまいました。



さすがに1世紀以上が経ち、街並みも、自動車も、道ゆく人のファッションも
変わってしまったけど、カフェ文化と活気はそのままです。

この絵の構図は中々複雑で、店の内装もすっかり変わってしまっていたので、
ずばりココ、という場所を見つけられませんでした。



こちらはPlace Clichyと題された作品ですが、画面奥に霞がかって見えている
サクレ・クール寺院、実は広場から見ることはできません。


右側に描かれている彫刻はまさしくPlace Clichyのもの。
ボナールはこの頃からデッサンをもとにアトリエで描くというスタイルを
取っていたので、大胆にも2つの場所を絵の中で結び付けたのでしょうか。


そしてボナールがかつて借りていたアトリエの前も訪れてみました。
ガートルード・スタインのときのように金のプレートはついていなかったけど、
クラシックな石造りの壁とバルコニーの手すりが素敵な典型的なパリのアパルトマンでした。



5/28/2012

The Artist



2011年5月の公開からはや1年、
アカデミー賞受賞の興奮も落ち着いた今頃になってようやく
映画The Artistを見てきました!

映画監督や俳優にはあまり詳しくなく、見たいかどうかすぐに判断できないので、
ロードショーの時はポスターを横目にぼーっと見逃して、
時間が経ってからじわじわと見たくなり、映画館に行くというパターンが多いです。

そんな私が東京で行きつけだったのが下高井戸シネマ。
これでもかというくらい、私の好みにぴったりの映画を
世間の注目からワンテンポ遅れて上映してくれていました。


パリでは、ロードショーから時間が経ってもだいたいどこかの映画館が
上映してくれていて、パリスコープ(ぴあのような週刊情報誌)やネットで
ぱぱっと調べると、すぐに見つけることができます。

The Artistは犬が活躍していると聞きつけどうしても見たくなってしまいました。





俳優ジャン・デュジャルダンとの息づかいもぴったりの食卓のシーンでは思わず微笑み、
映画のラストで、飼い主を危機から救うため疾走する場面では大感動。
犬って素晴らしいなぁ。

そもそもサイレント映画には犬が登場する作品が多いそう。

私が今まで見たことあるのは、フリッツ・ラングの「メトロポリス」と
エイゼンシュタインの「イワン雷帝」とチャップリンくらいなので、
これから機会があれば色々と見てみたいと思います。


そして、うちのポチもいつか映画に....。

BaselへBonnard展を見に


すっかり旅行記をひとつ忘れていました。
5月の2週目の土曜日、会期終了間際のボナール展に駆けつけるため、
コロックの合間を縫ってパリからバーゼルへの日帰り旅行をひとり敢行しました。

パリからTGVで3時間と少し。
草原や家々が流れていく車窓を見ながらうとうとしているとあっと言う間です。

駅は重厚な雰囲気。スイスはフランの国なので、駅には自動両替機や窓口がずらり。
とりあえず20ユーロほど両替してみたけれど、街中ではユーロも結構使えました。



緑色のトラムとバスが主な交通手段。


トラムに乗って、いざ出発。目指すは郊外のリーヘンにあるFondation Beyeler美術館



スイスのトラムは、時間に正確、車内も綺麗、揺れも少なくて静か....
ついパリと比較してしまいます。






30分ほどで目的地に到着。入口に並んだポスター。期待が膨らみます。



ちょうどお昼時なので、美術館のお庭にあるレストランでランチ。


野菜のパイ包み焼き、きのこのクリームソースをいただきました。
こくがあってとてもおいしかったけど、この一皿とハーブティーで25フラン、
約2000円はやっぱりスイス・プライス....。


ちなみに、Beyeler財団では現在Jeff Koons展も開催中。
お庭にはSplit-Rockerが鎮座していました。





さて、いよいよ美術館へ。写真では何度も見たことのあるレンゾ・ピアノの建築。
いつもはジャコメッティの彫刻が置かれている展示室に、ボナールの作品が見えます。



展覧会はテーマによって構成されていて、
パリの街路から始まり、庭、ダイニングルーム、マルト、浴槽、鏡、窓と
ボナールが画業を通して取り組んだ主題をほぼ網羅していました。

始めて見るプライベート・コレクションの作品もたくさんあったし、
《逆光の裸婦》とは、パリ、ブリュッセル、東京を経てかれこれ4回目の再会。
思わず「久しぶり」と声をかけたくなりました。

初期のパリの作品には、必ず通りを横切る女性の小さなシルエット。
ボナールが街行く人々に注いだ眼差しを象徴しているような気がして、
いつかじっくり分析してみたいような、そのままそっとしておきたいような、
私にとってとても大切な存在です。




そして、この作品、人物が一人描かれているんですけど分かるでしょうか??
画集で見て知ったつもりになっていた絵ですが、今回カンヴァスを前にしてはっとしました。


そして感動したのは風景画の色彩の瑞々しさ。
天井の高い開放的な空間、真っ白い綺麗な壁、そして何より自然光を取り入れた照明。
絵画の色ほど不確かなものはなく、壁の色や照明にすぐに左右されてしまうけれど、
Fondation Byelerで見たBonnardの風景画ほど眼に焼き付けたいと思った色はありません。

いままで、パリ市立美術館や川村記念美術館、葉山の近代美術館で
まとまった点数のボナールを見る機会がありましたが、
今回見た風景画が一番良かったです。


ボナールが用いた緑や青、モーヴ色を網膜にいっぱい浸透させて、
ふと視線をそらすと窓の外にも樹々が見えるという贅沢なシチュエーション。




カタログや、ボナールグッズを購入して、大満足で展示室を後にしました。




お庭では、彫刻作品だけではなく花々も愛でることができます。
今の季節はツツジが満開。




時間があったので美術館の周りも少し散策。道路と反対側には、
広々とした草原と丘、そのうえに点在する家々を見渡すことができます。



地下には修復室も設けられていました。
緑に囲まれたこんなに静かな場所でお仕事ができるなんてうらやましい。 

裏側の池には、またしてもJeff Koonsのバルーンが。

赤茶色の建築と自然の調和も計算しつくされているようです。

 Fondation Beyelerを後にし、トラムで中心地までもどります。
帰りの列車まで小一時間あったので、少しだけ街に出てみることにしました。


バーゼルはパリと同じように大きな河を挟んでふたつに別れていて、
どちらの岸に住んでいるかで、階級や政治的態度も異なっているようです。

なかなかファッショナブルな子犬。しっぽだけが白いなんて。


このあたりがバーゼルの中心地のよう。やっぱり中央駅から徒歩圏内です。
チョコレート屋さん(スイスはミルクチョコレートの発祥地)がだくさんありました。 

くまのぬいぐるみ屋さんも。みんな目がつぶらで、お店が開いていたら
どの子か連れて帰りたくなるところでした。

河辺に聳え立つ教会。赤茶色の壁に、緑色を基調にしたモザイクの屋根。
フランスで見る大聖堂とはひと味違った佇まいです。



大聖堂のふもとでは、老若男女が謎の遊びに興じていました。

河沿いには小さな家々が並んでいます。パリのアパルトマンとはまた違った趣。

そろそろ駅に戻ろうと、振り返ると、なにやら秘密の抜け道のような黒い穴が。
こういうのはやっぱり吸い込まれてしまいます。

そっとくぐり抜けると、そこにあったのは光に溢れた回廊と中庭。


予期していなかった光景にしばらく見とれてしまいました。


いよいよ列車の時間が迫ってきたので帰りは急ぎ足で。
めずらしいイモムシの看板が眼に飛び込んできたのでそれだけパシャリ。
家具屋さんのようだったけど、どうして金のイモムシなんだろう。

何とか間に合い、車内で食べるサンドイッチの夕飯を買って一安心。
駅の構内はシックで調和のとれた構造。



まだ明るい午後18時過ぎ、パリに向けての列車は定刻通り発車しました。
雲間から射す光にまどろみながらうとうと...。



こんな小さな村にもいつか行ってみたいな。