10/21/2012

fiac! 2012


今年もしっかり入場料35ユーロを払ってfiac!を見に行ってきました。
予約をしたので、並ぶこともなくすんなりと中へ。

会場全体の雰囲気は昨年と変わらず、
グランパレがホワイトキューブで埋め尽くされます。

韓国のギャラリーで見つけたレベッカ・ホルンの作品。
動いてなかったけど、空気感がまぎれもなく彼女のものでした。

会場の隅っこで、小さなプロジェクション。
気付いている人ほとんどいなかったなぁ。

雑多な会場のなかで、李禹煥の作品は人の足を止めさせる何かがあるようです。



表参道のエスパス・ルイヴィトンでも作品が紹介された
フランスの現代彫刻家Xavier Veilhanの作品。

会場の中心部に近いギャラリーでは、大きく人目を引く作品がいくつか。




白いブースが整然と並ぶ様は美しいです。

全体をちゃんと見ようとすれば4〜5時間はかかろうという広さ。
休憩コーナーも完備されています。


小さいおじさん...よりも後方に写り込んだおじさんの不可解なポーズが気になる。

ヴェルサイユ宮殿での個展で一躍注目を浴びたJoana Vasconcelosのオブジェも。

Sarah SzeのModel for a Print。丁寧に作り込まれたミクロコスモスです。

私の今年一番のお気に入りはこちら。
ハイヒールを履いたUmberto Boccioniの彫刻。
Francesco Vezzoli作、Unique formes of continuity in high heels。

Claude Lévêque & 川俣正。

Louise Bourgeoisのドローイング。赤い手。

舟越桂さんの彫刻もありました。日本の画廊ではなかったと思います。

Alfred Manessierのタピスリーやステンドグラスの色彩が結晶したような油彩作品。



Damien Hirstの鳩のホルムアルデヒド漬け。
広げられた白い翼と、ケースの余白と、ホルムアルデヒドの薄い水色が
美しくもありました。


後日、チュイルリー公演のfiac!野外展示にも足を運んだので
いつくか作品を紹介したいと思います。

Jurgen DrescherのHouse of Carpetsの中から。

Nicolas MilhéのMeurtrière[銃眼/狭間]。
裏面はコンクリート、表は鏡。空間に最も溶け込んでいました。

こちらは日本人アーティスト、新宮晋氏のSinfonietta of Light。


 William Kentridge & Gerhard MarxによるFire Walker。

三毛猫 VS 柴犬


寿命更新中、20歳のタマは人間でいうと96〜98歳くらい。
体力は衰えても、眼光は日増しに鋭くなっているように感じます。

そして、近所の猫と喧嘩をして負った背中の傷から
角まで生えてきて(実際には毛が固まって伸びているだけとのこと....)、
ますます威厳が強まっています。



そんなタマを心配そうに見つめる、若輩者ポチはまだ犬年齢5歳。




でもやっぱり、タマの心配よりも
家族皆が和室に集っていることが楽しくて仕方ない様子。


ひとしきりはしゃいだ後はみんなに撫でてもらいながら無邪気にお昼寝。
寒い冬は、もふもふの犬肌が恋しくなります。


ところで、猫は21歳まで生きれば人間でいう100歳を迎えるそう。
こうなったらタマにはもっと長生きしてもらって、
来年の100歳のバースデーを盛大にお祝いしたいものです。



Chat Noir展&モンマルトルの葡萄収穫祭


かつて多くのボヘミアン芸術家たちが集ったモンマルトルの丘。
古き良き時代を彩った画家たちの作品を収蔵展示する場として、
1960年にモンマルトル美術館が開館しました



この17世紀の建物には、
当時ルノワール、ユトリロ、ヴァラドン、デュフィといった
画家たちがアトリエとして滞在していたそうです。

美術館の建物だけではなく、この界隈一帯に広がる
古い建造物と石畳の狭い路地がパリの趣きを醸し出しています。


そんなモンマルトル美術館では、2013年の1月13日まで、
「Chat Noir[黒猫]」展を開催中。

Théophile Alexandre Steinlenによって描かれたこのポスターを
見たことがある人も多いのではないでしょうか。

Chat Noirとは、Rodolphe Salisという人物が1881年に
モンマルトルに開いたキャバレーの名前です
そこに芸術家や文学者が集って、
彼らが室内装飾やポスターのデザイン、雑誌の出版などを手がけました。
そこにはロートレックやヴュイヤール、グラッセ、リヴィエールらの名前も。

当初は本当に小さなキャバレーだったようですが、
経済的にも成功を収めて移転し、最終的にはクリシー大通り68番地に落ち着きました。


クリシー大通りのChat Noir  1929年撮影


展覧会では、手紙や雑誌等豊富な資料や絵画作品によって、
彼らの活動の軌跡を追っています。

とりわけ眼を引いたのは、版画家アンリ・リヴィエールが中心となって
キャバレーで上演されていたThéâtre d'ombres[影絵劇場]の再現展示。




Albert Robidaのこのリトグラフにも影絵が描かれていますね。

画面の中に生き生きとしたシルエットを映し出したChat Noirの影絵劇場は、
一般の観客だけではなく、画家たちをも魅了しました。
とりわけナビ派の画家への影響については、
Patricia Eckert Boyerによる以下のような研究があります。

The Nabis, the Parisian Vanguard Humorous Illustrators and the Circle of Le Chat Noir,
University of California, 1982.

キャバレー「Chat Noir」の雰囲気を堪能して美術館の庭に出ると、
展覧会の噂を聞きつけてやってきたのか、
黒猫がおとなしく私たちの帰りを見送ってくれました。



さて、芸術の秋に続いて食欲の秋も忘れてはいけません。
折しも10月2週目のモンマルトルは葡萄収穫祭の真最中。

モンマルトルにある葡萄畑から生産されるワインは年間わずか1000本だそうですが、
収穫祭のあいだは、フランス各地からワイン生産者が集結し、
試飲をしたり、グラスで一杯やったり、ボトルを持ち帰ったりできます。

この日は、ワインをこよなく愛するプルーストさんとボナールの2人で、
シャンパン、赤ワイン、白ワインを次々に飲み干しました。
(といっても試飲なので少しだけです)

小雨がちらつき寒かったこの日、暖まるために最初に飲んだのはヴァン・ショー。
このかっこよすぎる銅の製造機で作られたヴァン・ショーは、
スパイスと柑橘の香りがよく効いていて、納得のおいしさ。


そしてサクレ・クール寺院の周辺に立ち並ぶ露店では、
ワインのおつまみにかかせないソーセージやチーズもたくさん。
こちらもしっかり試食しましたが、
いままで食べた中で一番といっても良いくらいおいしかったです。
やっぱりあのチーズ(名前忘れた...)を買えばよかったな。


久々に登ったモンマルトルの丘から眺めると、空が少し低く感じました。


悪天候にもかかわらず、この人だかり。


パリにいる間に、もっとワインとチーズをたしなまなければいけないと
決意を新たにした、秋の夕暮れでした。


10/11/2012

ヴェネツィア景観画 カナレットとグアルディ


ジャックマール・アンドレ美術館では、
18世紀のヴェネツィアでヴェドゥータ(都市景観画)を描いた
カナレット(1697-1768)とフランチェスコ・グアルディ(1712-1793)の展覧会を開催中。

ここ最近のパリは灰色の雲が空を覆い毎日のように雨が降り続いています。
展覧会を訪れた日も、どんより曇り空。





高級ブティックやギャラリーが門を構える8区にひっそりと佇む瀟酒な建物は、
19世紀の銀行家エドゥアール・アンドレと、
画家であった妻ネリー・ジャックマールが暮らした邸宅。
当時は連日のようにパーティーが開かれていたようで、
パリ社交界の華やかさを伺い知ることができます。

夫婦が世界各地を旅して集めた美術品、とりわけ
イタリア・ルネサンス、18世紀フランス絵画、オランダ絵画、
そしてタピスリーや家具などの調度品のコレクションが充実しています。


カナレット・グアルディ展は非常にオーソドックスな安心して見られる構成で、
モスグリーン色の落ち着いた壁の色も主張しすぎず、
奥行きある絵画空間を引き立てていました。


全体の流れとしては、
ヴェドゥータの確立とカナレット初期の作品にはじまり、
カナレットとグアルディがそれぞれ描いたヴェネツィアの景観をメインに、
グアルディが先駆者とは異なる画風を模索した後年の作品群へと続き、
さらにラグーン(潟)、祝祭画、奇想画といったジャンルもカバーしていました。



門外漢なのであまり詳細な分析はしませんが、
彼らの作品が、現代の私たちの眼にも魅力あるものとして映るのは、
画家の眼前に広がっていたであろう実際の景観を、
遠近法という西洋絵画史上最も重要な発明を駆使しながら、
いかに絵画のなかに再構築するかという探求が見てとれるからだと思います。

そこに光や大気、水の動きが加われば、
同じ景観が無限の変奏へとひらかれてゆきます。

たとえば、ポスターにも用いられている上の作品は
カナレットが1723年にサン・マルコ広場を描いたものですが、
およそ17年後、1740年頃に同じ場所を描いた作品がこちらです。


確かに同じ場所ですが、都市の質感が全く異なります。


さらに、1785年頃にグアルディが描いたサン・マルコ広場では、
奥行きが深まり、影と光の効果でよりドラマチックな景観となっています。


もちろん、視点の違いというのはあるでしょうが、
同じ広場を描いた景観画がこれほどまでに異なる様相を呈してくるというのは
新鮮な驚きでした。

今回の展覧会は、同じ空間に並べられた作品を前に
その違いを体感することのできるまたとない機会。

会期は2013年1月14日までです。
http://canaletto-guardi.com/fr/home-canaletto


10/07/2012

フィガロの結婚 オペラ・バスティーユ


マリヴォーさんとオペラ・バスティーユにフィガロの結婚を見に行ってきました。
バスティーユ劇場には5€の立見券なるものがあるのですが、
それを入手するために開演4時間前の朝10時半に劇場へ、
一か八かの挑戦に見事成功しました。

整理券が配られるので、4時間まるまる寒空の下待っていたわけではなく、
タイミングを見計らってカフェや昼食で時間をつぶしながら....
一人だとさすがにきついけど、二人なら頑張れます。

ともあれ、ほぼ丸一日を費やしてのチケット獲得劇〜オペラ鑑賞と
なりましたが、一日かけた甲斐のある内容でした。


最近ipodでよくクラシックを聴いていて、
モーツァルトのフィガロの結婚は最初に入っている曲なんですが、
いつも小さなイヤフォンから耳に入ってくる旋律が
タクトの一振りと共に劇場に響き渡る瞬間は感動ものです。

例によってあらすじだけ予習していって、
舞台上方に流れるフランス語字幕のこまごまとした台詞は
そこはかとなく意味を取り、
役者さんたちの歌声や動き、そして舞台美術に魅入っていました。


1幕と2幕はほぼ同じ舞台で、家具だけが少し変化する、
シックな色合いのクラシカルな室内。



そして休憩を挟んでの3幕でぱっと奥行きが開け、
見事な透視図法の空間が出現。
左手の窓から差し込む精妙な光が、外界の広がりを感じさせました。




言いようのない美しさを放っていたのが4幕。
庭園を描いた淡い背景に、舞台を浸す蒼い薄闇。
この舞台は、ヴァトーやフラゴナールらロココ趣味の絵画から
インスピレーションを得ているそうです。


とすると、やはりこのあたりの作品でしょうか。

 ヴァトー《シテール島への船出》1717年

フラゴナール《ブランコ》1768年頃


ボーマルシェが戯曲を書いたのが1784年、モーツァルトの作曲が1786年、
オペラの舞台となっているのが18世紀半ばなので、時代的にもぴったりですね。


この舞台美術を作ったのはイタリア人演出家のGiorgio Strehler(1921-1997)。
1973年にヴェルサイユのガブリエル劇場で初めてお披露目されて
大きな成功を収めたのち、舞台装置が2003年に廃棄されるまで、
実に160もの公演に用いられたようです。

ミラノのスカラ座が状態の良い複製を保管していたということで、
今回オペラ・バスティーユでの復活が実現。


40年近く前に考案された舞台空間ですが、
2012年の今も全く色褪せていませんでした。
そして照明の力はすごいなと改めて実感。