3/31/2013

真夜中のデザート Hugo & Victor


Hugo et Victorという名のパティスリーを知り、
初めてお店を訪れて以来の念願だった
ワインとケーキのコラボレーションを味わってみたいという
夢を叶えてもらいました♡

Hugo et Victorは、フランス人の二人の幼なじみ、
Guy Savoyのシェフ・パティシエ(!)を務めたHugues Pouget氏と
チョコレート製造から販売までを手がけるBarru Callebaut社や
パリの百貨店プランタンで経験を積んだSylvain Blanc氏が
2010年にオープンさせたお店。
ちなみにお二人ともまだ30代半ば。

すでに、Raspail大通りの1号店に加えて、
St-Honoré通りにプランタンへの出店と3店舗を展開中。

なぜ19世紀の偉大な文学者の名前が冠されているかというと、
ユゴーが暮らしたヴォージュ広場に近い
Rue des Lions-Saint-PaulにPouget氏が住んでいて、
そこでお店の構想を練っていたからだそう。
ちなみにこの通りにセザンヌも住んでいたのだとか。
素敵なエピソードです。
  
お店はとてもシックな作りで、
オーソドックスなチョコレートや
半球形の鮮やかなショコラ、
マカロン、ケーキ、焼き菓子が並びます。

本のかたちをしたチョコレートケースは
プレゼントにも最適。

でも、このお店の一番のオリジナリティは
ワインとケーキ2種、ショコラを組み合わせたシリーズ。

Pouget氏が作るケーキに、
ソムリエのFrédéric Béal氏が選ぶワイン。
チョコレート、キャラメル、プラリネという基本の3種に加えて、
季節ごとに5種類のフレーバーが用意されています。

それぞれのフレーバーごとに2種類のケーキがあります。

ケーキの1種類目は "Hugo"と名付けられていて、
現代的なガストロノミーの感性で生み出されたパティスリー。

2種類目の "Victor"は、ミルフィーユやサントノレといった
フランス人にとっては懐かしいクラシックなお菓子の再解釈。


今回選んでもらったのは、キャラメルのシリーズ。
まあるいチョコレートのケーキ("Hugo")と、
キャラメルのミルフィーユ("Victor")。


ワインはDon Pedro Ximenezという
スペインのシェリーワイン、1982年もの。

 色は赤いけれど、100%白葡萄を原料にしたワインです。
ペドロ・ヒメネスというのは葡萄の名前。
甘口のシェリーは、
天日干しにしてレーズン状になった葡萄から作られるそうです。

1982年...生まれる前のワインを飲んだのは初めてなので
感慨深いものがありました。
 何でも、最低25年熟成させたものを
ヴィンテージ順ではなく、
味に深みが出てきたものから順に販売しているそうです。

完全なる付焼き刃の知識を披露してしまいましたが、
 バイト先のソムリエさんによると、とっても希少なワインとのこと。
  
今も最後の一杯をちびちびと飲みながらブログを書いていますが、
確かに黒糖のような凝縮されたコクのある甘みです。
白葡萄からできているなんて信じられない...。


深夜2時をまわっていたかな、
最後の晩餐ならぬデザートに、
球体のキャラメル・ケーキとワインをいただきました。


チョコレートを割ると、
中にはキャラメル風味のクリームとソース、そして
マカダミアナッツ。


ワインとケーキのコラボレーション、
半信半疑なところもあったのですが、
納得のハーモニーでした。 

ケーキがだんだんとなくなっていくのも、
時間が経って朝がくるのもさみしくて、
ゆっくりゆっくり食べました。


2日目はキャラメルのミルフィーユ。
1日経ったミルフィーユはしっとりとして、
 やさしい味わいでした。

ワインの最後の一口を飲み干したのでこの辺で。 

今日から夏時間になり(気候は真冬のままですが)
明日から4月。
ひたすら研究を進めたいと思います。

3/27/2013

Metz Pompidou別館とステンドグラスの街



いつか行こう行こうと思って先延ばしになっていた
Pompidou-Metzをついに訪れました。
ドローイングの展覧会を開催中だったのでこの機会に。

オープンが2010年5月だから開館してもうすぐ3年になるんですね。
坂茂とジャン・ド・ガスティーヌ合作による
インパクトある建築と「Chefs d'œuvre [傑作]?」と名付けられた展覧会で
話題を呼んだのが記憶に新しいですが、
時を経た現在の姿を目の当たりにして、
少しせつない気持ちになりました。


ところで、MetzはPompidouの別館だけの街ではありません。
紀元前1000年のガリア人の時代にまで遡る歴史を持ち、
6世紀にはメロヴィング朝フランク王国の都として栄え、
カロリング朝、神聖ローマ帝国への統合を経て、
17世紀半ばにフランス領になり、
その後はフランスとドイツの統治のあいだで揺れ動いた
という過去があります。

メロヴィングやカロリング....世界史で習ったなぁ...




12時頃に駅についてまず向かったのはもちろんお昼ごはん。
今回の旅は方角に強いパディントンさんが一緒なので、
わたしはすっかり安心してのほほんと着いて行きました。


レストランに向かう途中で立ち寄ったSt Maximin教会。


 

12世紀から15世紀にかけて建造されたロマネスク建築で、
中に入ると薄蒼い光がにじむ小さな礼拝堂のよう。

  

現在のステンドグラスはジャン・コクトーの手によるもの。
1960年代末頃に設置されたそうです。


ランチのレストランはばっちりリサーチ済み。
家族で経営するアットホームなお店La Table de Polです。

日替わりのメインとデザートで17€くらいだったかな。
メインのlieu noir[ポラック]というタラの魚料理もおいしかったし、
何よりも嬉しかったのはこちらのデザート。

ロレーヌ地方の名産ミラベルというスモモ科の果物の
コンポートとマスカルポーネチーズに
砕いたスペキュロス・クッキーをふりかけた一皿。
素朴でやさしい味わいで幸せな気持ちになりました。

ランチの後は近くにあったドイツ人門まで足をのばすことに。
 
付近にドイツ騎士団の病院があったことからこの名が付いたそう。
13世紀から15世紀にかけて建設された中世の門で、
Seille川にかかる橋の役目も果たしています。
2つの塔と弓矢を構えるための銃眼、
そして石を落すための突出し狭間をそなえた堅牢な要塞。
写真にも悲愴感が漂っていますが、
筆舌に尽くし難い寒さでした。

寒さと時間に追われるようにPompidou-Metzへ。
平日ではあるものの人影はまばら。
フランス国内の地方美術館では動員数1位を誇っていますが、
ルーヴル・ランスがオープンしたので順位に動きがあるかもしれませんね。


構造としては、1階にGrande Nefと呼ばれる大きな展示室があり、
その上にコンクリートでできた長方形の3つのギャラリーが
ランダムに乗っかっているというもの
それをエスカレーターを内蔵した鉄塔がつないでいます。

木組みの屋根には、
驚くべきことにテントの布のようなものを張ってあり、
その正体はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、通称テフロン、
そう、フライパン表面のコート塗装によく用いられている素材です。

ともあれ、詳細はwikipediaをごらんください。

天井の網目模様美しかったです。
氏がパリで買った中国帽子からインスピレーションを得たのだとか

ひとつめの展覧会は「Une Brève Histoire des Lignes[線の短い歴史]」
1948年生まれの社会人類学者Tim Ingoldの著作 Lines : a brief history を着想点に
1925年から現代までのドローイング作品を集めた展示。

「人間や物事の研究は、それらが成す線の研究である」という
Ingoldの言葉を引きつつ、
 バウハウスの教授陣、とりわけカンディンスキーによって
試みられた線の分類学を皮切りに、
歩行の痕跡を辿った線、
身体や空間を測定する手段としての線、
潜在的に感知される亡霊のような線、
文字と線、 
手相に象徴される生命の線
という章立てで展開されます。

解説文がやや抽象的になり過ぎるきらいがありましたが、
PompidouのCabinet d'arts graphiquesとカンディンスキー図書館の
コレクションから大放出された
作品自体は興味深いものが多かったです。

左手のケースにはカンディンスキーが理論書Punkt und Linie zu Flächeのために
描いた直筆のドローイング。
潔く引かれた線かと思いきや、修正液で慎重に線を整えた跡が。

でもいまカタログを見たら、図版では修正液の部分が消されています!! なぜ...

ChristoのRunning Fenceプロジェクト。

Alfred Manessierの墨のデッサンが何だか良かった。

Joel Fisherの巨大なドローイング。
Sans Titreとなっていますが、一目でわかりました、犬だと。

カンディンスキーの手。思わず自分の手を重ねてしまいました。
大きかった。
それにしてもどうして緑色なんかにしたんだろう。

会場はブラック&ホワイトの壁でシックに決まっていました。

続いて、2つ目の展覧会はSol LeWittのWall Drawings。
ヨーロッパでは最大規模の回顧展だそうです。

全面ガラス張りの窓が爽やか。


フランス人たちが、失敗したり、揉めたりしながら
この巨大なドローイングを完成させたかと思うと
(あくまでも勝手な妄想です)
胸が熱くなりました...。 


Daniel Burenのプロジェクト「Vue Plongeante[俯瞰]」
ちょっと...いやかなり微妙でしたね。


美術館を出て再び極寒の街へ。
目指すは大聖堂。

復活祭目前ということで、街のお菓子屋さんにはうさぎの
オーナメントが溢れています♡
 

このサン・ルイ広場の古い建物が美しかったです。

素敵な路地裏。

やがて目的のSt Etienne大聖堂に。


1220年から1552年にかけて建設されたゴシック建築。
身廊の高さは42m、世界でも最も高い中世建築のひとつです。

大きさの秘密には、二つの教会を一つにしたという
経緯もあるとのこと。

写真では全く伝わりませんが、この高さは初体験。
総面積6500m2のステンドグラスから降り注ぐ
光の感覚も影響していたかもしれません。


おもわず、
かのサン=ドニ大聖堂の修道院長シュジェール(1081-1151)
に思いを馳せてしまいました。

シュジェールは擬ディオニシウス=アレオパギテス(5世紀)の
『天上位階論』を解釈し、
教会内部に劇的な光を取り入れたことにより
ゴシック様式の祖とされています。

St Etienne大聖堂も各時代の巨匠たちによる
ステンドグラスで彩られていますが、
私たちに最も馴染みがあるのはやはりシャガール。

 ブルーとイエロー、2種類のステンドグラスがありました。
他にもキュビスムの画家Jacques Villonのステンドグラスもありました。


大聖堂はJaumontという黄色がかった石灰岩で覆われていて、
Metzの街並みのほとんどがこの同じ石で作られています。

馬のガーゴイル。


 大聖堂の奥にはモーゼル川とタンプル・ヌフ教会。
右手にはフランス最古のオペラ劇場が建っていました。

 河沿いの建物にはなぜだか心惹かれてしまいます。

街中に戻り、ラブレーが2年間滞在したという礼拝堂の前を通り、

 頭の家(あまりの寒さに写真を撮る気力もなく...)を見て、
駅に戻りました。

ドイツ統治時代に建設された立派な駅舎。
 
最後に夜のPompidou-Metz。

少年のような好奇心溢れるパディントンさんと、
何だってすみずみまで見たい願望を持ったわたしとで、
凍える寒さのなか、かなりの距離を歩き回って街を散策しました。

行きのTGVでは印刷物のデザインの話で盛り上がったけど
帰り道はぐったり... 

ともあれ2人とも風邪をひかなかったので
めでたしめでたし。

3/20/2013

リールとルーヴル・ランス


3月半ば、ケースマイケルのダンス公演とルーヴル・ランスを目的に
再び冬のリールへ。

 カメラを持って行ったにもかかわらず
中身の電池を忘れるという失態を犯したので、
写真ではなくイラストの旅行記となります。
あしからず...。

前回とは異なるゆったりとした滞在で、
リールの街並みや食文化も楽しむことができました。


マレ地区で出会って以来、
ゴーフルのとりこになっていた Meert のリール本店で
お茶ができたことが一番の感激☆


チョコレートとフランボワーズのケーキに、
ピスタチオとさくらんぼの砂糖漬けのゴーフル。
風味豊かな紅茶とともに、贅沢なひとときでした。

サロン・ド・テは真っ白の壁にシャンデリアのメルヘンなお部屋。
でも若い女の子でもなく、マダムでもなく、
おじさまが一番の顧客です。 
ケーキをぱくぱく食べている様子、可愛かった。

リールはMeertの他にも街中にお菓子屋さんが溢れていて、
ひょっとするとアルザス地方よりも
激戦区なのでは...
1ヶ月くらい住んでみたいものです。


夜はリールのオペラ座でケースマイケルのRosas danst Rosasを見ました。

日常の動きを取り入れたダンスに、
リズミカルな反復、
4人のダンサーたちの動きの組み合わせと切り替わりの鮮やかさ、
ドラマチックな音楽、
今まで見たコンテンポラリー・ダンスのなかで
一番楽しめた作品だったかもしれません。

とりわけ、舞台両脇に鏡を置き、
上からのスポットライトを反射させて
ダンサーの身体を浮かび上がらせる照明が
 とても効果的でした。

公演が終わるともう夜の10時近く。
お腹が空いていたので、
市街地のレストランで簡単な夕食を取ることに。


 フランドル地方の名産、カルボナードという牛肉のビール煮込みと
ムール貝の白ワイン蒸し。 

どちらもベルギービールに良く合いました。
何の変哲もない観光客向けレストランの料理だったけど、
なんだかとてもおいしく感じました。


今回泊まった宿は、街はずれにある素敵なアパルトマン。
 

古い建物を改装して、
スタイリッシュな家具が置かれた部屋は
なかなかくつろげました。
ここにずっと住みたかったなぁ。


2日目は、念願のルーヴル・ランスへ。
リールからランスまでは電車で40分ほど。
極寒だと聞いていたけど、まったくその通りでした...。

実際の気温の低さに加えて、
寂れた田舎町の寒さが身にしみます。

7年前の冬にひとり訪れたクールベの故郷オルナンの
記憶が蘇るよう。
ひとつ言えることは、ランスもオルナンも、
真冬にひとりで行くところではありません。


昨年12月にオープンしたばかりのルーヴル・ランス、
建築家は言わずと知れたSANAAです。

庭は思いっきり工事中でしたが、
建物はきっちり仕上げられていました。

写真を見て白っぽい外観を想像していたのだけど、
実際にはメタリックな素材。

四角い箱がいくつか連なっていて、
エントランスの箱は全面ガラス張りでした。


SANAAの建築の向こうには、三角形のぼた山という乙な景観。
そう、ランスは炭坑で栄えた街という歴史があります。

 残念ながら企画展示室は閉まっていたので、
Galerie du temps[時間のギャラリー]をじっくり見ることに。

展示室に入った瞬間、
空間の軽さに少なからず衝撃を受けました。
 距離感がうまくつかめなかったからかな。

ルーヴル宮殿の
グランド・ギャラリーも
実際にその場に立ってみると
意外と軽やかな印象を受けるんですが、
それとは比べ物になりません。

展示室の名前のとおり、
ここでの展示のテーマはただ時間というそれのみ。
  
ルーヴル美術館が所蔵し、
これまで展示されてこなかった作品、
あるいは本館から移動させられた作品が、
年代順に散りばめられています。


 考えてみると、あらゆる芸術作品がそれぞれの時代に
属しているのは当然のこと。
ある程度バランスを考えて選ぶという作業はあったかもしれませんが、
古代ギリシャ・ローマ、西欧諸国、イスラム、インドといった
さまざまな文化圏を背景にもつ作品が
ほとんど恣意的に並べられています。

でも、
壁に刻まれた数字や空間の奥行き、作品の重なりによって
眼前にふわっと出現する時間の層と、
その中を歩き回る経験は
感動的ですらありました。

キュレーションを封印して、
ひとえに建築とセノグラフィによる演出がなせる技。

ジョルジュ・プーレの言葉を借りるなら、
まさに「時間の空間化」といえるでしょうか。
ヴァレリーやプルーストがこの展示室を訪れたら、
何と言うか聞いてみたいな。

ところで、この作品の迷路を彷徨っていると、
最初当惑した軽さが徐々に輪郭を帯びてきました。

まずは壁面。
メタリックでありながらもかすかに周囲を反射する
やわらかな表面で、
常に他の作品や人々の気配といった周囲の広がりを感じさせる
独特の浮遊感を生みだしていました。

そして天井。
構造を正確に説明できないのですが、
自然光を拡散して取り入れつつ、
照明器具をうまく隠していて、
光がたゆたう天井それ自体が美しいものでした。

おそらく季節や天候によっても表情が変わるのだろうと思います。


ところで、ランスに行く際に一番悩ましいのが食事。
美術館にカフェはあるのですが、軽食とデザートのみ。
しかも週末は混雑が予想されます。

暖かくお天気の良い日なら、
サンドイッチを持って行ってピクニックも良さそう。
ランスのメインストリートにはパン屋さんが何軒かありました。

ただ、メインストリートといっても寂しいもので、
この通りにレストランはほぼ皆無。
時計塔のある教会前の広場に数軒ある程度です。


わたしは予約した電車までの約3時間を
極寒の夜ひとりで過ごさないといけなかったので、
くつろげそうなお店を必死で探し、
そうして見つけました。

まさに灯台下暗し、ルーヴルに行くのとは反対側の駅前の通りにある
小さなレストラン Le Pain de la Bouche です。


外観や内装もこだわっていて、
サービスのおじさんやお兄さんもとっても親切。

そしてこの地方の名物らしいFaloucheという、
ふわふわのパンに野菜やハム、チーズをのせて焼いた料理が
シンプルながらも味わい深かったです。

私はドライトマトとキャラメリゼしたオニオン、
山羊のチーズにはちみつ、ルッコラのFaloucheを頼みました。
  地元の白ワインもすっきりとした甘みで美味。


おそらくランスで唯一といっても過言ではない
素敵なレストラン。
ランスに行かれる方はぜひ立ち寄ってみてください。